読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

非ストイックと篠笛カフェのススメ

◆私の泳ぎ方 和太鼓・民俗芸能


 私のライフワークは、日本古来の太鼓や笛や踊りなどを通じて、多くの人の居場所となれるようなお祭りの輪を築くこと。
 そのために、演奏活動や技術指導、プロの演奏家による公演やアマチュアチームによる合同コンサートといったイベント企画などに携わっています。

 中でも力を入れているのが、そういった世界に縁のない人にも興味を持ってもらうための普及活動。
 打てば大きな音が鳴る和太鼓は多くの人に興味を持ってもらいやすいため、民俗芸能の世界を知ってもらうための入り口として、初心者のための和太鼓体験なども開催しています。
 そうして和太鼓を体験してもらった人たちの中からは、いくつかの太鼓チームも生まれてきています。

 そんな太鼓チームを運営していくにあたって分岐点となるのが、篠笛という楽器の存在。
 太鼓を使った楽曲の中には、リズムを刻む打楽器だけでなく、メロディーを奏でる篠笛などの管楽器を併用するものも数多く存在します。
 こうしたメロディーありの曲に取り組むかどうかによって、そのチームのカラーは随分と左右されることになります。

 私は太鼓や鉦や笛が渾然一体となってドンドン・チキチン・ピーヒャララと楽しく奏でるお囃子を中心に教わってきましたので、必然的に私が携わる太鼓チームにもメロディーありの楽しげな曲を好む傾向が生まれます。
 そこで浮かび上がるのが、誰が篠笛を吹くのかという問題です。

 篠笛の難点は、ただ単に息を吹き込むだけでは音が出ないということ。
 フルート・ピッコロ・龍笛・篠笛などの横笛を鳴らすには、ビーム状に絞られた空気を適切な位置と角度で歌口に当てなければいけません。 
 そして、空気をビーム状に絞る口許の使い方や、音の鳴る適切な位置と角度を掴むには、ある程度の熟練が必要となります。

 そのため、太鼓チームにおける篠笛担当者の割合はかなり低く、「メンバーの半数以上は全く篠笛に取り組まない」という太鼓チームの方が主流となっています。
 そんなわけで、チーム内に他の吹き手がいないせいでいつも篠笛ばかり吹いているという篠笛担当者も少なくありません。

 最初から篠笛を吹くためにそのチームに入っているのならそれでも構わないのでしょうが、そんなケースはかなり稀です。
 太鼓チームにおける篠笛担当者は、まず太鼓を打つ爽快感に魅せられてチームに入り、後から篠笛を始めたという人がほとんど。
 その場合、そもそも太鼓が打ちたくて始めた活動のはずなのに、チームの必要に応じて篠笛を覚えたがために、打ちたい太鼓がなかなか打てなくなるのです。

 ちなみに私は太鼓を始めて2~3年経ってから篠笛に取り組み始めました。
 私は人に何かを伝えるのが趣味のようなものですから、数学だろうが太鼓・篠笛・踊りなどの民俗芸能だろうが、「どうやったらやれるのか」と人から聴かれる場面があれば熱心に応え続けてきました。

 その過程の中で考察を重ねてきたテーマが、「篠笛に取り組みやすい環境とはどのようなものか」というものです。
 そして、メンバー全体の2割以下しかいなかった吹き手の数を、1~2年で8割以上にまで増やした福岡の太鼓チームの成功例をもとに、私が考案したのが「篠笛カフェ」という練習スタイルです。

 和太鼓と違って篠笛は、ただ音を出すというだけで訓練を要する楽器。
 篠笛を自然に鳴らすためには、箸の使い方や自転車の乗り方を覚えるのと同じように、新たな口許の使い方を身体に染み込ませていかなければなりません。
 それには地道な反復練習が必要不可欠ですが、多くの太鼓打ちは音出しの反復練習の段階で篠笛に挫折し、それ以降は太鼓などの打楽器にしか取り組まなくなります。
 
 通常ならばこの孤独な反復練習に耐えうる精神の持ち主のみが晴れて篠笛の担い手となれるわけですが、私の目的は優秀な演奏家を養成することではなく、多くの人にとってより居心地の良い居場所を築くこと。
 もっとゆるい雰囲気で篠笛に取り組めるよう、みんなでワイワイとお茶やトークを楽しみながら、反復練習にまつわる孤独を軽減しつつ篠笛に励んでいこうというのが、私の考える篠笛カフェの第一のコンセプトです。

 そして第二のコンセプトは、なかなか音が出ない人が余計な劣等感を感じずに練習に打ち込める環境を確保すること。
 物事の上達にはどうしても個人差がありますから、自分がまだ音を出せていないときに周りの人がピーピー音を鳴らしていると、その場所が自分の居場所だとは思えなくなってくる人も出てきます。

 そうした疎外感を回避するための工夫としては、練習する部屋を二つ以上確保するというやり方もあります。
 初学者がアドバイスを受けながら練習できるスペースと、ある程度音が出せる人が共同で自主練するスペースとを別個に分けてしまえば、初学者に余計な重圧を与えることもありません。

 湯茶にお茶菓子なども用意していつでも休憩できる場所を準備しておくのも、重圧を和らげるのに効果的です。
 私が主催している篠笛と踊りの練習会では、紅茶・コーヒー・カフェラテ・抹茶ラテなどと、その日までに選んでおいた何種類かのお菓子を持っていって、練習に疲れて休んでいるときにも居場所があるようにと工夫しています。
 そのおかげか、3つの太鼓チームのメンバーが篠笛の練習に集まり、これまで篠笛に挫折してきた人たちものびのびと楽しく練習に打ち込んでいます。

 また、初学者の篠笛練習へのモチベーションを下げてしまう要因として、「まず音がしっかりと出なければ曲の練習には移れない」という思い込みがあります。
 この固定観念に囚われると「音がしっかりと出る」という初学者にとって高めのハードルをクリアしない限り次の段階には進めないため、達成感をなかなか得られないまま挫折してしまうという事態に陥ってしまいます。

 ですから私の主催する練習会では、音がしっかりと出ていなくても関係なしに曲の練習に入ります。
 篠笛の練習を大まかに二つに分類すると、安定した綺麗な音を出すための息の練習と、曲を奏でるための指の動きの練習とがありますが、穴を塞いだり叩いたりする指の運動自体は練習すれば即座にその成果が実感できるため、音出しだけの練習よりも達成感が得やすいからです。

 そして、一曲でいいので指の動かし方だけでもマスターしてしまえば、何の曲も知らないときよりも反復練習に向かうための心理的なハードルが低くなります。
 さらに、音がまだしっかり出ていなくても、指パクでもいいからとチームの演奏の輪に加わっていれば、そのうちに自然と体が息の使い方を覚えていってくれます。

 私自身も、音の出し方を習ってから半年以上は篠笛をほったらかしにしていました。
 ですが、まだしっかりと音が出ていない段階で大好きだった水口囃子という曲の指使いを同じチームのメンバーに教わり、音を出さない指だけの反復練習でまずは指使いだけを身に付け、音が出ないままチームの合同練習に何度も飛び込むことでいつの間にか音が出るようになっていました。

 つまり、太鼓チーム内の篠笛人口を増やすためには、まず第一に篠笛に対する抵抗感を減らすように場の雰囲気を整えること。
 完璧主義や勤勉の精神などストイックさのみが支配している場所では、ごく一部の限られたメンバーしか頑張り続ける気になれません。

 人が何かに熱心に打ち込めるのは、まずその対象に興味を抱いて引き込まれ、「とことんやりたい」という欲求が自然と湧いてくるから。
 ですから、少しでも興味を持った人がすぐに挫折してしまわないよう、篠笛の初学者に対して手厚くケアする体制が太鼓チーム内でもできれば、篠笛をやり込みたくなる人も自然と増えていきます。

 その点、この篠笛カフェのスタイルであれば、より気楽により多くのメンバーが篠笛の練習に向き合うことができます。
 メンバーの多くが篠笛を吹けるようなチームを目指すのであれば、「ひたすら練習に励め」とただ叱咤するだけでなくこのようなゆるい導入の方法もありますので、もし興味があれば試してみてはいかがでしょうか。


※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/03/12/175400
※そのプロレス的世界観を支えている「記述信仰」の実態を、簡単な図にしてまとめています。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/07/06/051300