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間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

ろくでもない場所を変えるには

◆当ブログの方針 和太鼓・民俗芸能 内田樹を読む 政治を考える


 私が結婚したのは7ヶ月前のこと。
 そのとき、友人の何人かからは「お前も結婚なんて堅実なことをちゃんと考えていたのか」という風に意外がられました。

 ですが、私は大学院生の頃からずっと結婚願望を持ち続けてきました。
 「自分がおじいさんになったときに仲良く過ごせるおばあさんがいないのは辛いだろうな」という観点から、私は「共に連れ添っていく未来のおばあさん」を常に求めていたのです。

 子どものころから変わり者と呼ばれて育ってきた私は、そんな自分と一緒にやっていける人なんて滅多に出会えないのだろうと危機感を抱いていました。
 若い頃の男女の恋愛感情の盛り上がりで意気投合したような気になったところで、おじいさんとおばあさんになったときに普段の日常生活を穏やかに過ごせるかどうかは全くの別問題。
 ですから当時の私は、たとえ現時点での恋愛関係が表面上は上手くいっているときであっても、「ジジババになったときに善きパートナーとして過ごしていくのが難しいだろうな」と想像してしまうような価値観の食い違いを感じてしまった時点で、目先の恋愛よりも老後の結婚生活を優先して早々に別れを切り出していました。

 若い頃のそんなこだわりを知っていた友人の一人が、久々に集まった仲間たちとの席で「今回なぜ結婚しようと思ったのか」と質問をしてきました。
 真面目に考えた上で私は「お互いが相手に勝手な期待を押し付け合わないのが良かった」という風に答えました。
 双方ともに三十路過ぎで出会ったこともあり、若い恋愛にありがちな幼稚な一体感に陥ることなく、相手は自分とは別人格なんだという大前提を踏み外さずに互いを尊重し合う信頼関係を築いていけたので、結婚生活への移行は大変スムーズだったのです。

 ですが、その場では私の回答はウケが悪かったようでした。
 浮かれた新婚トークで盛り上がりたかったであろう連中の期待を外してしまった私は、その場の雰囲気を優先して「食の好みが合ったのが良かった」と答え直すことにしました。
 すると、こちらの回答はその場の人たちのお眼鏡にかなったらしく、「食の相性は大事だよね」という共感的なムードに落ち着くことができました。

 とまあ、こんな日常の会話の場面では雰囲気を乱さないことを優先して「よく知られたわかりやすい話」の方を選択することが多々あります。
 ですが、私的な時間を費やして毎週更新しているこのブログでは日常生活での凡庸な気づかいを封印し、「井戸端会議や茶飲み話なんかでは決して扱われないような複雑な話」の方を優先的に発信していきます。

どうせ口を開く以上は、自分が言いたいことのうちの「自分が言わなくても誰かが代わりに言いそうなこと」よりは「自分がここで言わないと、たぶん誰も言わないこと」を選んで語るほうがいい。
それは個人の場合も、メディアの場合も変わらないのではないかと僕は思います。  

街場のメディア論 (光文社新書)

街場のメディア論 (光文社新書)

 

  これは『街場のメディア論』という著書で内田樹が表明した、彼自身の言論へのスタンスです。
 私もわざわざブログを更新するからには、「自分が言わなくても誰かが代わりに言いそうなこと」を書いて世の風潮に安易に迎合するのではなく、「自分がここで言わないと、たぶん誰も言わないこと」を選択的に発信していきたいと思います。

 ですからこのブログでは、世の現状に対する単なる愚痴やクレームなどは発信していません。
 不満をぶちまけて安い共感をねだっている暇があったら、不満に思ってしまう自身の受け取り方の方を疑ったり、現状を変更していくための具体的な提案をしたりといった、建設的な行動に専念します。

mrbachikorn.hatenablog.com


 その際、参考にしているのが内田樹流の世直しの方法論です。
 内田樹はその著書『邪悪なものの鎮め方』の中で、このように語っています。

自分が今いる場所が「ろくでもない場所」であり、まわりにいるのは「ろくでもない人間」ばかりなので、「そうではない社会」を創造したいと望む人がいるかもしれない。
残念ながらその望みは原理的に実現不能である。

人間は自分の手で、その「先駆的形態」あるいは「ミニチュア」あるいは「幼体」をつくることができたものしかフルスケールで再現することができないからである。
どれほど「ろくでもない世界」に住まいしようとも、その人の周囲だけは、それがわずかな空間、わずかな人々によって構成されているローカルな場であっても、そこだけは例外的に「気分のいい世界」であるような場を立ち上げることのできる人間だけが、「未来社会」の担い手になりうる。

革命をめざす政治党派はその組織自体がやがて実現されるべき未来社会の先駆的形態でなければならない。
もし、その政治党派が上意下達の管理組織であれば、その党派が実権を掌握した場合に実現することになる未来社会は「上意下達の管理社会」である。
党派が権謀術数うずまく党内闘争の場であれば、その党派が実現する未来社会は「権謀術数うずまく国内闘争の場」となるほかない。
蟹が自分の甲羅に似せて穴を掘るように、私たちは自分の「今いる場」に合わせて未来を考想する。

そして、歴史は私たちに「社会を根本的によくする方法」を採用するとだいたいろくなことにはならないということを教えてくれた。
「一気に社会的公正を実現する」ことを望んだ政治体制はどれも強制収容所か大量粛清かあるいはその両方を政策的に採用したからである。

近代市民社会の基礎理論を打ち立てた大思想家たちに私たちがつけくわえるべき知見が一つだけあるとすれば、それは「急いじゃいかん」である。
人間社会を一気に「気分のいい場」にすることはできないし、望むべきでもない。

「公正で人間的な社会」はそのつど、個人的創意によって小石を積み上げるようにして構築される以外に実現される方法を知らない。
だから、とりあえず「自分がそこにいると気分のいい場」をまず手近に作る。
そこの出入りするメンバーの数を少しずつ増やしてゆく。
別の「気分のいい場」で愉快にやっている「気分のいいやつら」とそのうちどこかで出会う。
そしたら「こんちは」と挨拶をして、双方のメンバーたちが誰でも出入りできる「気分のいい場所」ネットワークのリストに加える。
迂遠だけれど、それがもっとも確実な方法だと経験は私に教えている。 

邪悪なものの鎮め方 (木星叢書)

邪悪なものの鎮め方 (木星叢書)

 

  この文章を読んだとき、それまで自分が和太鼓の世界でコツコツと積み上げてきたことが、心の師に認められたような気分になりました。
 大学院生のころから10年以上、日本のお稽古ごとの世界にありがちなそつのないお利口さん志向を排し、個々が思いっきりのびのびと楽しめる「気分のいい場所」を築くことに専念してきた私にとっては、深く染み渡る言葉だったのです。

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 ですからこのブログでも快適な言論の場を作るための小さな一歩として、普段は口に出すのがはばかられるようなデリケートな問題について、危うく波風を立ててしまいそうな具体的な提言を紹介することにしています。

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 また、教師という職業に全く憧れを抱かないまま「変なおじさん」として教師になった私独自の教育観や教育実践についても、単なる不平不満の吐露に終わることなく建設的に語っていきます。

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 さらに、私自身の和太鼓ライフや教員人生の基礎となっている数学観について、巷に流布している一般的な受け取り方とは別の見方を紹介しています。

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 そして当ブログの一番の目的は、全ての話題に共通する言葉をめぐる洗脳や煽動の問題について語っていくことです。

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 そのようにして、家庭や和太鼓や学校の授業や言論など自分が携わる場面において、創意工夫を凝らして例外的に「気分のいい場」を立ち上げることが私のライフワークです。
 そのうちどこかで「気分のいいやつら」と出会えることをうっすらと願いながら、少しずつでも「気分のいい場所」ネットワークを広げていけたらと思います。


※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/03/12/175400
※そのプロレス的世界観を支えている「記述信仰」の実態を、簡単な図にしてまとめています。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/07/06/051300