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間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

「支持政党なし」は詐欺か挑戦か


 2014年の第47回衆議院議員総選挙において、日本の民主主義のあり方を根本から問い直すような衝撃的な出来事が起こりました。
 北海道比例ブロックで立候補した政党「支持政党なし」が有効票の4.2%にあたる104854票を獲得し、既存政党である社民党の50364票や次世代の党の38342票をはるかに上回ったのです。

 この密かな一大事はメディアでもだんだんと取り上げられてきており、「支持政党なし」に対する世間での評価は大きく別れています。
 それらのギャップは、この党名を有権者に対する詐欺行為ととらえるか、政治の現状に対する挑戦ととらえるかの食い違いから生まれているようです。

 詐欺行為として批判する人の多くは、この政党名の狙いが「事情を知らない有権者から票をだましとること」にあるとみなしています。
 こうした批判に対して代表の佐野秀光は、自身のブログの中で以下のように反論しています。
http://sanohidemitsu.seesaa.net/s/article/410997582.html

マスコミの方とお話をしますと、必ずと言って良いほどに「支持政党なし」という党名だと知らずに投票した人もいるのではって言われますが、それはマスコミの責任ではないですか。

こちらは隠れていたわけでもないし、堂々と名簿届出政党として立候補している訳ですし、選挙公報政見放送も街頭演説も行っているわけですし、自分たちで出来ることは全てやっているんですよ。
ただ、11党ある名簿届出政党の中で、幸福実現党と支持政党なしだけが、報道されなかっただけで、私がひっそりと隠れていたわけではないんですよ。

また、政策を一切なしにしているのは支持政党なしに投票していただいた方を裏切らないためなんですよね。
我が支持政党なしが政策的に右寄りだとか左寄りだとしたら、それは支持政党なしに投票していただいた方を裏切ることになってしまいますからね。

マスコミの方にだけは一番言われたくないのが、だまし討ちしていたような言い方ですよ。
支持政党なしの存在を報道しなかったのはマスコミですからね。

 この反論にもあるように、有権者の票をかすめとることだけが目的だったのなら、立候補した後は何の活動もせずに隠れていた方がずっと多くの勘違い票を期待できたはずです。
 ですが彼はインターネットや選挙公報政見放送や街頭演説などの場で、「支持できる政党が一つもない」という有権者の正直な声を、誰もが無視できない形で世に示したいとアピールし続けてきました。  

 さらには、北海道ブロックに比例で立候補するのに2人の候補者を立てる必要があるため、立候補のための供託金だけでも1200万円の出費が発生しています。
 これだけ本気でPRし、メディアなどにも露出している活動が、単に勘違いによる投票のみを目的になされているとは考えにくいでしょう。

 また、たとえ勘違い票が目的ではないとしても、政党としての主張そのものがハナから信用できないという批判の声もあります。
 それを検証するために、まずはホームページ中の「なぜ政策がないのか?」という項目に挙げられている党側の説明を見てみましょう。
http://xn--68jubz91pp0oypc1c.com/riyuu.html

現在様々な世論調査では「支持政党なし」が圧倒的に多くなっておりますが、その支持政党なしの方の投票する選択肢がありません。
よって仕方がなく自分の考え方に全て合致していなくても、考え方が近いとかその時に人気のある政党や政治家に投票するしかありません。

また支持政党がある方も、その政党の政策が10個あって7つ賛成で3つ反対でも他の党よりも賛成の政策が多いからこそ、その政党を支持して投票するだけで決してその党の政策が全部賛成で一括してお任せした訳ではないはずです。
そして選ばれた議員は自分の政策と違っていても当然に所属政党の政策に合わせざるを得ません。

支持政党なしでは、党としての政策はなく、議会において出てくる各種の議案や法案については、その議案や法案ごとに一つずつインターネット等を通じて皆様方にその議決に参加して頂き、一括してお任せ頂く訳ではなく個別にその議案や法案ごとに賛成多数であれば賛成に反対多数であれば反対へと、皆様方の使者として議決権を行使しに行くだけと考えております。
よって事前に党としての政策は一切ございません。

 これらの言い分を信用するならば、この党の一番の活動目的は「支持政党がない人々の民意」を正式な選挙結果にとにかく反映させること。
 それを理解した上で今回「支持政党なし」に投票した北海道ブロックの有権者たちは「どの既存政党も支持しない」という自分の正直な気持ちを実際の選挙結果にしっかりと表示させることができました。
 「支持政党なし104854票」という文言を公的な記録として残すなんて、無効票や白票や棄権という従来型の手段では叶わなかったことです。
 
 ですが、疑いの目で見るならば、信用できない点などいくらでも見つけることができます。
 まず、何よりも大きいのが「いざ議席を獲得したら支持者の意見など無視するのではないか」という、政治家のモラルに関する定番の疑念でしょう。
 そして、このモラルの問題をクリアしたとしても、次には「有権者の意見を集約するネット投票のシステムを公正かつ適切に運用できるのか」という実行能力の問題が待ち構えています。

 仮に「支持政党なし」が議席を一つでも獲得した場合、こうしたモラルや実行能力の問題をクリアしない限りは「選挙前の公約に反している」と詐欺師の烙印を押されるでしょう。
 ただ、もし本当にこのネット投票システムの本人認証や個人情報保護やセキュリティや管理者のモラルなどの問題をすべてクリアできたなら、そのインパクトの大きさは図り知れません。

 「支持政党なし」に議席を持たせて法案ごとにネット投票で直接意思表示しようとする国民が増えれば、それは立法を国会議員に丸投げしなければならない現在の日本の制度自体に対する不服申し立てとも言えます。
 単に「現在は支持政党がない」というレベルの話ではなく、「民意を反映できない現状の間接民主主義よりもネットを活用した直接民主主義の方が良い」という、国の政治原則に関わる話にもなりかねないのです。

 「支持政党なし」の主張が大がかりな詐欺なのか偉大な挑戦なのか、正直なところ私には判断できません。
 ただ、「言っていることが詐欺なのか挑戦なのか判断がつかない」という点だけで見れば、程度の差こそあれ他の政党や政治家も本質的には同じでしょう。

 選挙前の公約を実行しないままに、約束していない政策をどんどん実行していく与党。
 与党になれないと分かっているのを良いことに、できそうもない理想を無責任に約束する野党。
 ちゃんと管理できるかも分からないネット投票を約束する支持政党なし。

 どの政党が言っていることがマシなのか、判断するのは私たち有権者です。
 要は、投票の際の選択肢が一つだけ増えたということですね。


※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/03/12/175400
※そのプロレス的世界観を支えている「記述信仰」の実態を、簡単な図にしてまとめています。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/07/06/051300