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間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

この国に「大人」はどれだけいますか?

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 『キーチvs』は、前回紹介した新井英樹の漫画『キーチ!!』の10年後の世界を描いた続編。
http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2015/03/29/000754
 世の中の矛盾と戦うために小学5年生で立ち上がった染谷輝一という少年が、既得権益を相手にとことん戦ってしまったが故に「秩序に反逆するテロリスト」として米軍の特殊部隊に射殺されるまでのお話です。

キーチVS 9 (ビッグコミックス)

キーチVS 9 (ビッグコミックス)

 
 輝一が世間の醜い有り様と戦っていた理由は、「世界はもっと正しくあるべきだ」という模範解答のような正義感からではなく、「見えるところにムカつかせることがあるとぶっ壊したくなる」という単純な生理的嫌悪感からでした。
 そして輝一のこの「誰もやらないなら俺がやる」という強引なまでのわがままさを、世間一般の民衆にも前向きに響くようにと計算ずくでカリスマ像をマネジメントし、小学生にして「キーチズカンパニー」という法人を立ち上げたのが同級生の甲斐慶一郎です。
 
 こうして始まった小学生二人の世直し運動も、日本の既得権益の分厚い壁をぶち破ることはできず、10年後には大悪人のレッテルを貼られて潰えてしまいます。
 ですが、醜い世間に立ち向かう二人の果敢な姿勢は、次の世代へと確かに受け継がれていきました。
 
 どこまでも人任せで自分から動かない民衆は結局のところ既得権益のなすがままなので、一人のカリスマに頼る世直しでは世の中は変えられない。
 そう学んだ次世代の子供たちは、カリスマに頼らない自分たちの手による世直しを決意します。
 
今の大人なんかモノ買ってゲーム、ケータイ、ネットいじるだけで俺ら子供とほぼ変わんねぇ。
だったら子供でもっ、少しガンバリゃ、世の中変わるんじゃねえのか!!
 
 輝一と甲斐に共鳴してこのように考えた子供たちは「大人を捨てよう」という運動を始めました。
 輝一らの助力でテレビ生放送の場を与えられた子供たちは、全国に向けて「人任せではない世直し」を訴えます。
 
この国の子供に言います。
いいですか、世の中は変えられるんですよお。
 
「この先この国の子供たちは、世の中がこのまま変わらなければ酷い目に遭う」
大人は口癖のようにそう言います。
 
でも動きません、言うだけなんです。
そこでボクらは同世代に向けて、この国のしくみを、簡単な図にしてみました。
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もし今あなたの側に大人がいるなら、この図がおおまかに正解かどうか聞いて下さい。
強く反論はできないはずです。
大人はこんな世の中でもいいかって変えずにきたんですよお。
 
つまりどんな酷い目に遭おうが子供たちの未来は勝手にしろ、と、大人は世を変えるフリと見て見ぬフリだったんです。
それは本当に責任感のないなまけ者たちです。
 
だから子供の皆さん、大人を軽蔑して下さい。
育ててもらってることには感謝して軽蔑するんです。
 
そしたら「自分は違うぞ」って「世の中を変えるぞ」って決意しませんか。
ボクら子供の未来は「ボクら子供が変える」って、今、子供の皆さんが本気で決めれば絶対変わるんですよお!!
 
 この緊急生放送番組の場でPRをしたのは、世間の仕組みの歪みによって肉親や友人が犠牲になるのを間近で見てきた5人の小学生。
 彼らはカメラの前で自分が見てきた世の醜い現状を語り、時の政府が語っていた「金持ちがもっとお金を持てれば下にもおこぼれがくる」というトリクルダウンの理論は嘘で、「下々の親の不幸が余り余って子供に落ちる」という負のトリクルダウンこそが自分たちを襲っていると説明します。
 そして、現状にただクレームを付けているだけでは、この社会を作ったダメな大人と一緒だと訴えます。mrbachikorn.hatenablog.com
  
だからって、俺らが、「被害者だ」って威張ってたら、ダメな大人になっちまうぞ。
だからっ子供たちよ、俺たちだけで集まらねえか。
今すぐ集まって世の中動かす準備しねえか!?
 
政治家、官僚目指す奴!!
学者になりたい奴、法律、勉強する奴、夢は本物のジャーナリスト、国民の側に立つ警察官、将来大もうけする予定で困ってる人にお金を出すのを惜しまない奴。
 
みんな集まって上に居座る大人に嫌だって言えりゃ、今よか絶対まともになる。
大人ども文句があるなら叱りに来い!!
 
 また別の子は、機能不全に陥っている日本の民主主義の現状を、大人たちに問い正します。
 
だから教えて欲しいんです。
私が大嫌いな多数決、民主主義のことを。
歴史の中で「今はこれが流行」ぐらいの規則でしかないくせに、みんなが正しさを決めてるつもりが気持ち悪いです。
 
大人の皆さんは何を基準に代表を選んでますか。
多数決なんかで選ばれた政治家は民意を楯に威張る。
政治家村に住むと党やグループが優先。
これも何を基準に判断してるのか…
 
官僚の命令が基準ですか?
企業のおもわくで判断しますか?
やっぱり基準はアメリカですか?
目的のためなら検察・警察・裁判所・メディア利用してインチキやるって本当ですか?
 
日本が本当にアメリカの言いなり、属国なら、「属国は嫌だ」って言える人だけが政治家だと思うけどそんな人、本当にいるんですか?
いつまで属国のままなんですか?
 
国民が世の中を知るため政治を考えるための新聞やテレビが正義のふりをして、官僚の天下り先、官僚の広報として世論を操作してるって本当ですか。
 
 輝一と甲斐は権力の象徴である各界の要人たちを追い詰め、この子供たちの問いかけに対する「本音の回答」を力ずくで引き出して全国に放送させます。
 まず、在日米軍司令官が語った本音がこちらです。
 
日本が米軍の属国だとは聞いていた。
勿論、日本における米国の影響力は絶大だ。
実際、米国からの物言いひとつで、日本が10年かけても変わらなかったことが1日で変わる。
通常、他国に隷属させられた国家には強い反発があるので、宗主国はそれを強権で抑えるものなのだが、驚いたことに日本人は「現状、属国」を認識しながら、自ら我先にと…隷属する真の奴隷だ。
 
 そして、この米軍司令官の「日本人は真の奴隷」発言を裏付けるかのような証言を、情けない前総理大臣が吐き出します。
 
グローバリズムの世界で、日本が生き残るにはっ、アメリカとの関係をより密に太く強くすることですっ!!
過去もそう未来もそうですぅ
自由も平和も安全も経済も全部、日米同盟が基軸なんですよぉぉ
日米同盟を良好に保つことで自由が生まれるんです。
平和と安全が保障され、経済も拡大成長するんです。
そのために日夜我々は額に汗するんですよぉ。
夢や理想じゃなく日本の政治家は「どうすればアメリカが喜ぶか」が重要なんですよぉぉ!!
 
 さらに輝一と甲斐は、経団連会長にこう詰め寄ります。
 
経団連に加盟の企業は大権力、金持ち同士でつるんで。
まともに税金も払わずに金、貯め込んで。
社会なんかクソ喰らえ。
税も人も安くしてもっと稼がせろ。
でなきゃ拠点を海外に移すぞ。
国際競争力を題目にわがままし放題のクソガキ。
カネ、カネ、カネで肥え太った豚の集まりが経団連か。
 
 問い詰められた経団連会長は、その質問に「そうだ」と肯定した上で、さらに開き直ってこう演説します。
 
「金儲けは善」
これが企業の論理かつ倫理だ。
企業が金を稼いで何が悪い?
誰だって税金なんぞ払いたかないだろ。
損したくない得をしたい。
なら、その要望を実現してくれる政治家を援助する。
恩も義理もカネが一番ならカネで返す。
カネを出した者が儲けを得るのは当然の権利だ。
我々が儲ければ国が富む、なにが不満だ。
 
 この尊大な態度に甲斐は「それで非道い目ぇ遭う奴死ぬ程おるやろ」と反論しますが、会長は知らん顔でこう答えます。
 
そんなことにまで、責任は持てんよ。
選挙で弱肉強食の新自由主義を選んだのは国民だよ。
 
 このようなグロテスクな世の中の仕組みを生放送の場で語ることに成功した5人の小学生は、大人たちに向かって「この汚ない現状を分かっていて放置してきたのが大人だ」と糾弾します。
 
大人の皆さんが知ってても放っていることですよね。
それが世の中のしくみでしょ。
それ、子供でも知ってますよ。
 
理想とか現実だとか何を言ったって「お金が一番」なんですよね。
今の大人がそれをどんな言葉で飾っても、恥知らずにしか見えません。
 
知ってますか。
子供が信用できる大人の言葉はもうたったひとつ、「お金が一番」ってことだけですよ。
 
そうじゃないなら、お手本の言葉と行動をボクらに伝えて下さい。
大人の皆さんっ!!
「お金が一番」以外に、なにかありますか?
 
ほかに言えますか?やれますか?
子供たちに心の底から伝えたいこと、伝えなきゃいけないことがありますか?
 
「大人」というのは、自分より前の世代の人から大切ななにかを受け取って、あとの世代に一番大切なことを手渡す人のことじゃないんですか?
 
だとしたら今、この国に「大人」はどれだけいますか?
みな「子供」に見えますよ。
 
 この全国へのPRをきっかけにして、輝一と甲斐の志を受け継いだ小学生たちは「まず私から頑張る」を合言葉に「大人を捨てよう」運動を広げていくことになります。
 私たち大人は、この子供たちに向かって何を語ることができるでしょうか。mrbachikorn.hatenablog.com
   

※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/03/12/175400
※そのプロレス的世界観を支えている「記述信仰」の実態を、簡単な図にしてまとめています。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/07/06/051300