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間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

和太鼓とアイドルの共通点

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 和太鼓という楽器には様々な特色がありますが、その中でも私が一番注目するのは頑丈さです。
 特に、くり貫いた欅の木になめした牛の皮を張った太鼓の耐久性は群を抜いており、これほど力いっぱい殴打しても壊れてしまわない楽器など滅多に存在しないでしょう。
 
 このように「楽器」というくくりで見れば異様なまでの頑丈さを誇る和太鼓ですが、もっと広い視野で見るならば、太鼓とは大きな振動を遠くまで届ける伝達装置です。
 集落への危機の接近を伝える、田植えなどの共同作業を賑やかして助ける、戦において自軍を鼓舞するなど、共同体の存続のために太鼓は重要な役割を果たしていました。
 その土地の五穀豊穣や大漁を願う祭礼の場でも、和太鼓は人の心身を揺さぶる大切なツールとして、人々の結束を強めるのに重宝されてきました。
 
 和太鼓は、その頑丈さ故に並外れた大きさの振動を生み出すことができ、その影響力故に日本における共同体形成の要として働いてきました。
 そんなわけで、各地に伝わる民俗芸能の中で頻繁に使われてきた和太鼓の音色は、日本の風土に生きる人々の心に特に染み渡りやすいものとなっています。
 
 そういった土着の芸能を持たない地域で生まれ育った現代人の私は、自分の人生を豊かに彩るための手段の一つとして、友人が所属していた和太鼓のチームに入りました。
 チームに所属していると、地域のイベントや結婚式など様々な演奏の機会がありますが、和太鼓そのものが人を惹き付けるために編み出された装置のようなものですから、よほどのヘマをしない限り観客からは好意的な反応をいただくことができます。
 
 私はこの法則のことを「太鼓≒ジャニタレ理論」と名付けています。
 これはつまり、和太鼓の演奏がウケている主な要因は和太鼓という楽器そのものの持つ力であり、それに比べれば演奏者の実力なんて副次的な要素でしかないということ。
 事務所やグループの力で実力以上の注目を最初から受けられる一部のアイドルのように、和太鼓演奏も「楽器自体の魅力」という下駄によってその評価が最初から底上げされているという意味です。
 
 売れていても謙虚なアイドルは、事務所という背景の有り難みや知名度の高いグループに所属できた幸運に素直に感謝することができます。
 それと同じように、ウケていても謙虚な太鼓打ちは、和太鼓そのものの魅力や和太鼓が好まれる日本の文化的背景、和太鼓というジャンルに出会えた幸運などに感謝して、自分自身の実力やオリジナリティーを過信することがありません。
 
 それとは逆に「客にウケているのは自分たちの実力だ」と解釈して、まるで客からの称賛の言葉に見合うだけ自分が偉くなったかのように錯覚してしまう太鼓打ちがいたとすれば、それはアーティスト気取りで音楽を語ってしまう身の程知らずのアイドル歌手のようなもの。
 アイドルにしろ太鼓打ちにしろ「下駄を履かせてもらえるおかげで輝いていられる」という事実を忘れてしまえば、その勘違いは非常に痛々しく映ってしまうのです。
 
 私の和太鼓の師匠である田楽座というプロの歌舞劇団は、日本に受け継がれてきた民俗芸能そのものの魅力に後押しされて、自分たちは舞台の上で輝かせてもらっていると十分に自覚しています。www.dengakuza.com
 謙虚な彼らはプロだからといってこれ見よがしに大物感を演出することもありませんし、クリエイターとしての創造性を、自分たちのオリジナリティーの凄さを見せ付けるためではなく、日本の民俗芸能の魅力をより多くの人に伝えるための創意工夫に活用しています。mrbachikorn.hatenablog.com
 
 私自身、そんな田楽座に導かれて和太鼓を始められたことを、大変幸運に思っています。
 唄に踊りに笛に太鼓にと、日本各地に脈々と受け継がれてきた民俗芸能という共有財産の楽しみを、下駄を履かせてもらった和太鼓愛好家としてこれからも思いっきり享受していきたいですね。mrbachikorn.hatenablog.com

   

※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/03/12/175400
※そのプロレス的世界観を支えている「記述信仰」の実態を、簡単な図にしてまとめています。

http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/07/06/051300