間違ってもいいから思いっきり

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

好ましい世界は自分たちで作るしかない

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自分が今いる場所が「ろくでもない場所」であり、まわりにいるのは「ろくでもない人間」ばかりなので、「そうではない社会」を創造したいと望む人がいるかもしれない。
残念ながらその望みは原理的に実現不能である。
 
人間は自分の手で、その「先駆的形態」あるいは「ミニチュア」あるいは「幼体」をつくることができたものしかフルスケールで再現することができないからである。
どれほど「ろくでもない世界」に住まいしようとも、その人の周囲だけは、それがわずかな空間、わずかな人々によって構成されているローカルな場であっても、そこだけは例外的に「気分のいい世界」であるような場を立ち上げることのできる人間だけが、「未来社会」の担い手になりうる。
 
 これは、以前紹介した内田樹の言葉。
 この世の欠陥をどれだけ的確に指摘することができたとしても、これまで自分の周りに「気分のいい空間」を少しも築いてこなかったような「気分の悪い人」が、これから「今よりも気分のいい社会」を実現する可能性は極めて低いでしょう。 mrbachikorn.hatenablog.com
 
 大言を吐いている暇があったら、まずは身近な問題から。
 さらに、内田樹は以下のように続けています。

 
人間社会を一気に「気分のいい場」にすることはできないし、望むべきでもない。
「公正で人間的な社会」はそのつど、 個人的創意によって小石を積み上げるようにして構築される以外に実現される方法を知らない。
 
だから、とりあえず「自分がそこにいると気分のいい場」をまず手近に作る。
そこの出入りするメンバーの数を少しずつ増やしてゆく。
 
別の「気分のいい場」で愉快にやっている「気分のいいやつら」とそのうちどこかで出会う。
そしたら「こんちは」と挨拶をして、双方のメンバーたちが誰でも出入りできる「気分のいい場所」ネットワークのリストに加える。
 
迂遠だけれど、それがもっとも確実な方法だと経験は私に教えている。
 
 そんなわけで、この世を住み良くするために私がしている身近な努力とは、長野を拠点に活動している歌舞劇団田楽座の舞台を、より多くの人に観てもらうための活動をすること。
 田楽座とは、お祭りの場で昔から人と人とを繋いできた日本の民俗芸能の温かみを舞台で伝えているプロ集団。www.dengakuza.com
 2004年に長野から田楽座を呼ぶための実行委員会を福岡で立ち上げ、活動を拡大していく中で長崎や大阪や堺や奈良や姫路の実行委員会とも交流を深めてきました。mrbachikorn.hatenablog.com
 
 2009年に関西に引っ越してからは西宮に「楽太鼓 笑宴快(ええんかい)」という和太鼓チームを立ち上げ、民俗芸能というジャンルへの興味を触発しようと試みてきました。
 そして、そこで知り合った西宮の仲間たちが「笑う門には田楽座実行委員会」という会を立ち上げ、2013年には初めての田楽座公演を開催するに至りました。
 
 こうして私たちなりの「気分のいい場所」ネットワークを広げていく中で「こんちわ」と出逢うことができたのが、NPO法人「人と地域の活動応援団ぽっかぽか」です。
 ぽっかぽかとは、都会の中で弱体化しつつあるコミュニティの結束力を取り戻すため、行政だけに頼らず自分たちの手でやれることをしていこうと活動している団体。
 放課後の子どもたちの居場所を作るために、校長と直接交渉をして小学校の敷地内に事務所を建てるなど、既存の枠に捕らわれない活動をしています。
 
 ぽっかぽかは、校区に関係なく子どもたちが立ち寄れる居場所というだけでなく、日本の伝統文化を次の世代に少しでも残していくための活動として、昔の遊び体験、そば打ち体験に着付け教室まで、幅広く活動しながら、それと同時に親の世代の横の繋がりをも育んでいます。
 そんなぽっかぽかと西宮の仲間たちが出会うことで、「瓦木楽太鼓たたき隊」という子どもたちのための太鼓チームが生まれました。
 「和太鼓を通じて世代を越えた繋がりを地域に築いていきたい」というぽっかぽかの願いに応えて、私も西宮の子どもたちと楽しく関わらせてもらっています。
 
 そして2015年、西宮の地域活動に貢献するため、西宮のための新たなお囃子「えびす田笑囃子 八祭(やっさい)」を、田楽座に作曲していただきました。
 2015年10月10日(土)開催の田楽座西宮公演で初お披露目するこの曲とともに、これからもええんかいと西宮実行委員会は西宮の地域活動に貢献していきます。
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 こういった経緯から、冒頭で紹介した内田樹の言葉には深く共感することができました。
 たとえどんな小さな一歩からであっても、愉快な実践を積み重ねていけば「気分のいい場所」のネットワークは確実に広がっていくんです。
 
  
※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方mrbachikorn.hatenablog.com

※そのプロレス的世界観を支えている「記述信仰」の実態を、簡単な図にしてまとめています。mrbachikorn.hatenablog.com