間違ってもいいから思いっきり

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

暗殺教室の実践的な教え

 『暗殺教室』とは、週間少年ジャンプで連載されている松井優征作の人気学園コメディ。
 蛸のような軟体動物の体を持つ主人公の殺せんせー(誰にも殺せない先生の略称)は、惑星を破壊できるほどの反物質を体内に抱えており、1年後には地球を木っ端微塵にしてしまうかもしれないという規格外の超生物。
 そんな殺せんせーの暗殺を日本政府から命じられた中学生たちと、そんな生徒たちの担任となって愛情たっぷりに自己流の教育活動を行う殺せんせーという、一風変わった教室の風景を描いた作品です。

 
 人間だったころの殺せんせーは死神と呼ばれた超一流の殺し屋で、そうした裏の世界で身に付けた知恵を、授業では「世の中を生き延びるための実践的な知恵」へと昇華しながら生徒たちに伝授していきます。
 そんな殺せんせーの授業の中でも、私が一番気に入っている教えを引用して紹介してみたいと思います。
 
君達はこの先の人生で…
強大な社会の流れに邪魔をされて望んだ結果が出せない事が必ずあります
 
その時社会に対して原因を求めてはいけません
社会を否定してはいけません
それは率直に言って時間の無駄です
 
そういう時は「世の中そんなもんだ」…と悔しい気持ちをなんとかやり過ごして下さい
やり過ごした後で考えるんです
社会の激流が自分を翻弄するならば…その中で自分はどうやって泳いでいくべきかを
 
いつも正面から立ち向かわなくていい
避難しても隠れてもいい
反則でなければ奇襲してもいい
常識外れの武器を使ってもいい
 
殺る気を持って焦らず腐らず試行錯誤を繰り返せば…
いつか必ず素晴らしい結果がついてきます
 
 ここで殺せんせーが述べているように、自分の今いる世界にどんな理不尽があろうとも、それを「許せない」だとか感情的に否定するだけでは単なる時間の無駄です。
 だって、そもそも世界は「もしそうだったら都合がよい」という程度の正論に沿って作られたものなんかじゃないんですから。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 現に理不尽が存在する世界で生きていくためには、「本当は世の中はこうあるべき」という感情的でご都合主義な理想論に引っ張られずに、自分がどんな世界に生まれ落ちたのかをありのままにしっかりと現状認識することがまず大事。
 だから殺せんせーは「本来あるべき姿になってないからこの世の中は間違ってる」といった、子どもの糧にならない無意味な言い分は自分の教育の場に一切持ち込みません。
http://mrbachikorn.hatenablog.com/entry/2014/03/09/065600mrbachikorn.hatenablog.com
 
 そして、社会の現状をまずは受け入れた上で、そこから自分の生きやすい突破口を見出だすためには、「殺る気」の伴った試行錯誤が必要だと説きます。
 この「殺る気」とは、これまで暗殺教室で子どもたちが培ってきた「殺るか殺られるか」というレベルの真剣さや、「いつも正面から立ち向かわねばならない」「逃げ隠れしてはいけない」「フェアでなければならない」といった塗り固められた正論に縛られない発想の自由さなどを含んだ言葉でしょう。
 
 こうした殺せんせーの教育者としての態度は、「変なおじさん」という教師像を目指す私にも大変共感できるもの。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 このブログも、世の中に溢れる「言葉の荒波」の存在をまず認識し、それに対して「間違ってる」などと無意味な反感は抜きにして受け入れた上で、激流の中でどう泳いでいくのかを考えていこうという、殺せんせーのようなモチベーションで運営しています。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 そんなわけで、人気漫画『暗殺教室』は、生きるための知恵や教育におけるヒントが得られる格好の教材だと、私は思います。
 気軽に読める楽しい作品ですので、まだ読んでいない方はぜひお試しあれ。

 
※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。
mrbachikorn.hatenablog.com
mrbachikorn.hatenablog.com
そのプロレス的世界観を支えている固定観念の源を「記述信仰」と名付け、その実態を以下のような図にまとめて解説しています。