間違ってもいいから思いっきり

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

駄目出しは人格否定じゃない

 何か思うように上手くいかないことがあるとき、自分では「何がいけなくて上手くいっていないか」がよく分からないときがあります。
 そんなときに便利なのが、自分より上手いと思える人の目から見た「自分への駄目出し」です。
 
 あらゆる物事に通じる「素早い上達のコツ」とは、失敗の回数を短期間で数多く稼ぐこと。
 逆にいうと、なかなか上手くならない人は、長い時間をかけていても失敗の回数をほんの僅かしか稼いでいません。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 覚え始めの段階でも他の人よりも早く上手くなる人は、普通の人が怖がったり面倒臭がったりして数回しか失敗できないでいる間に、黙々と何十回・何百回と細かい失敗を積み重ねているもの。
 何故ならそういう人は、数回のチャレンジで上手くいったとしてもそれは偶発的なものに過ぎず、ある程度失敗の回数を積み重ねないと確実には身に付かない と、経験で知っているからです。
 だから失敗を恐れて無駄に躊躇している暇があったら、身に付けるために必要な失敗をさっさと稼ごうとするのです。
 
 また、ビギナーレベルを脱した後は、一見失敗していないように見えるパフォーマンスの中にどれだけの修正要素を見出だしていけるかが上達の鍵を握ります。
 つまり、中級者以上になると「稼げる失敗がどこにあるか」「失敗に見えない失敗がどれだけ潜んでいるか」を見抜く力こそが、さらなる上達へと導いてくれるのです。
 
 そこで役に立つのが、より上手い人がくれる「自分への駄目出し」です。
 自分がある一定以上に上手くなれないのは、「稼げる失敗がどこにあるか」が自分では分かっていないということですから、その弱点を教えてくれる人の存在は本当にありがたいものです。
 
 ですが、どれだけ「ありがたい駄目出し」であっても、素直に受け止めたくないと思ってしまうのが人間のありがちな性です。
 中には「私は褒められて伸びるタイプだから」と言い張って、どんな駄目出しも全てはね退けたがる人もいます。
 このようなもったいない事態が起きてしまう原因は、「上手いか下手か」という巧拙の程度問題と「良い子か駄目な子か」という人格の優劣の話とを、ごちゃ混ぜにするようなしつけや教育が横行しているからです。
 
 弱者である子どもにとって、自分が受け入れてもらえるのか拒否されてしまうのかというのは、致命的に重要な問題です。
 ですから「上手く振る舞える子を良い子と認めて受け入れ、上手く振る舞えない子を駄目な子とみなして拒否する」という態度を強者の側がとれば、それは人格否定の恐怖を武器にした脅迫として作用します。
 
 そのような洗脳は、ただ単に「この部分が上手くいっていない」と具体的な行為の失敗要因を指摘されただけで、まるで「自分が駄目な人間だ」と糾弾されたかのように大袈裟に傷付いてみせる癖を生み出すことがあります。
 別に他人からの駄目出しは「自分を拒否するための人格否定の言葉」とは限らないのに、幼いころからこの種の脅迫を受け続けて育ってしまうと、条件反射的に後ろ向きになってしまったりするのです。
 
 そのように身に染み付いた洗脳を振りほどくために心に留めておきたいことは、どんなに上手い人だろうが、どんな目上の人だろうが、どんなに権威を持った人だろうが、他人の人格の優劣を裁けるような権限を持った人なんてどこにもいないということ。
 他人からの駄目出しなんてものは、上手いか下手かといった「上手くいくための豆知識」程度のものでしかありません。
 
 その人が言うように上手くなりたければ取り入れればいいだけの話で、そうでなければ無視してしまえばいいのです。
 無視して失うのは「その人が主張する上達のポイント」だけであり、そもそも人格の優劣とは何の関係もないんですから。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 そして、もし仮に相手が「大人ならこのくらいの努力はできて当たり前」とか「人としての基本がなっていない」といった人格否定まがいの言葉を発してきたとしても、それは「その人の脳内でしか通用しない架空の優劣」を伝えているだけ。
 いちいちその言葉を真に受けてへこまずに「恥ずかしげもなく他人を断罪できる相手なんだ」とだけ認識して、その相手の面倒くささを考慮に入れて今後の付き合い方を検討すればいいのです。
 
 逆に、上手かろうが下手かろうがそんなことは人格の優劣とは全く関係がないとすっきり納得してしまえば、自分が下手になってしまっている理由を教えてくれる駄目出しを純粋にありがたいと思えるようになります。
 自分より上手くいっている人も別に人格的に優れているわけではなく、上手くいくコツを手に入れる機会にたまたま恵まれていたというだけ。
 それは単に豆知識程度の差でしかないんですから、上手くなりたいんだったら下手に抵抗なんてせず、その豆知識的な駄目出しに素直にかじりついてみればいいんです。
 
 
※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。
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そのプロレス的世界観を支えている固定観念の源を「記述信仰」と名付け、その実態を以下のような図にまとめて解説しています。