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間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

和太鼓を打つ手が、力感なくグングン高く上がっていく練習法

◆私の泳ぎ方 和太鼓・民俗芸能

 和太鼓の打ち方にはさまざまな流儀がありますが、私が目指しているのは「肩肘を張らず、重心移動の勢いを活かして真っ直ぐ引っこ抜く」という、歌舞劇団田楽座から教わった打ち方。
 日本の和太鼓には、各地のお祭りの中で重宝されてきた民俗芸能としての和太鼓と、戦後から盛んになった舞台用のパフォーマンス和太鼓とがあり、両者の間には天と地ほどの隔たりがあります。
 私が心酔する田楽座は、この相反する両者の要素を、絶妙なさじ加減でブレンドして舞台に上げています。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 祭りの場を造る囃子として長年重宝されてきた和太鼓が戦後発祥のパフォーマンス和太鼓と決定的に違うのは、見映えのよさや刺激の強さよりも、音の心地よさや調和の絶妙さの方を重視すること。
mrbachikorn.hatenablog.com
 そんな民俗芸能を素材のままの姿で舞台に上げてもお客さんに飽きられてしまうと考えるパフォーマーは、さまざまな工夫をこらして刺激を付けたします。
 さらに、そもそも昔から残されている民俗芸能はその妙が分かりづらくて扱いが難しいと考えるパフォーマーは、もっと分かりやすそうなオリジナル曲の創作に精を出します。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 私が田楽座に心酔することになった一番の理由は、その動作の滑らかさ、切れ味の鋭さ、効率の良い動作のみが持つ機能美です。
 そうした動作の効率の良さにおいて田楽座が他のプロ集団より抜きん出ていたのはおそらく、さまざまな民俗芸能を形だけ真似るのではなく、各地の担い手に直接師事することで地元の方々の世界観までもを追体験しようと試み続けているから。
 数ある民俗芸能の中には、長時間太鼓を打ち続けたり激しく踊り続けたりするものもあり、そんな民俗芸能の担い手たちの中には「疲れにくい効率的な身体操作のノウハウ」が脈々と受け継がれていることが多いのです。
 
 ただ、こうした効率的な身体操作のノウハウは言葉で説明するのがなかなか難しいので、形だけ真似ようとする余所者にはなかなか再現できませんし、そんな動作の素養がない人が考えたパフォーマンス和太鼓の世界にもほとんど活かされていません。
 そのことを如実に表しているのが「両腕を耳の真横に真っ直ぐ上げる」というパフォーマンス和太鼓にありがちな流儀です。
 
 この流儀は「両腕が真っ直ぐ上がっているのが格好いい」という考えから生まれたのでしょうが、そうして上げられた腕が「太鼓で良い音を出す」ために役立っていることはほとんどなく、大抵の腕が「ポーズを見せつける」ためだけに上げられています。
 実際にやってみれば分かりますが、この構えでは両肩の三角筋に余計な緊張が生まれます。
 ですから、ドラムのテクニックを和太鼓に活かしたいと考える一派などは、力みなく両腕を泳がせることを重視して「両腕を耳の真横に真っ直ぐ上げる」という効率的でない流儀を一切取り入れていません。
 
 そんな中、田楽座は「両腕を高く上げる」という様式美と「その動作が造りたい音のために有効である」という機能美とを、無理なく両立することに成功しています。
 それを可能にしたポイントが「肩で振り回す」から「背中で引っこ抜く」への発想の切り替えでしょう。
 「肩ではなく背中で」と直接教わったわけではありませんが、田楽座から伝えられた「天井に刺さっているバチを全体重で引っこ抜くように」という比喩はこの発想の切り替えを示唆しているように思います。
 
 ですが、この「背中で引っこ抜く」という動作を実現するためには、肩甲骨から連動させて腕を操作する必要があります。
 現代人の多くは胴体を「一つの箱」のような塊と捉えることで不必要に固め、肩から先だけでしか腕を動かさない癖をつけてしまっているため、田楽座に師事する太鼓打ちでもなかなかこれを再現できていません。
mrbachikorn.hatenablog.com
 その結果、降り下ろす角度を垂直に近付けることで「真っ直ぐ引っこ抜く」ように見せかけた「肩でのぶん回し」に落ち着いていることがほとんどです。
 
 そんな落としどころに定着してしまった打法を、再び「背中で引っこ抜く」という方向に矯正し直す練習法はないかと考え、できたのが【前足の構えでカニさんレシーブ】という基本練習です。
 この練習の最大のポイントは、四つ足で歩く動物のように、腕を【前足】として体の前面で操作する癖をつけ直すこと。
 この【前足の構え】の範囲内でバチを振る癖をつけることで、背中との自然な連動を実現することができるのです。
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 実際、パフォーマンス和太鼓として舞台で人に見せ付けるつもりがない民俗芸能の担い手には、両腕がこの【前足の構え】の位置に垂らしてあり、肩肘を全く張らずに力感なく自然にバチを扱っている人が多いです。
 そんな民俗芸能のエッセンスを吸収している田楽座は、舞台における演出上の選択として「両腕を耳の真横に真っ直ぐ上げるポーズ」をときたま魅せることもありますが、彼らはそれが決して効率のよい動きではないということを自覚した上で様式美として敢えてやっているだけ。
 バチを効率よく操作しようとする際はやはり、胴体の動きを自然に手先へと伝えられる【前足の構え】を活用しています。
 
 今日の福岡での練習会で参加者相手に早速試してみましたが、「今まで使ったことがないところ(肩甲骨)が動いて気持ち悪い」という嬉しい感想を得ることができました。
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 「初心者のときにはできなかったことができた」というのは学びの楽しみの一つでしょうが、そういった「経験者レベル」の居心地の良さにしがみついてしまえば、それ以上の理想を追うことはできません。
 身体に染み付いた動作の癖を一気に刷新することは叶いませんが、コーヒーを一滴一滴ドリップするような気持ちでコツコツと挑戦していってもらいたいですね。
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【和太鼓の打法における4つの理想と、経験者にありがちな打法との違い】
 
①「力を抜く」
 
初心者・ガチガチのグーで握りっぱなし
経験者・握りが緩くなり手首から振れる
理想形・小指の操作を起点にして振れる
 
②「真っ直ぐ引っこ抜く」
 
初心者・肩を支点に弧を描いてぶん回す
経験者・初動のみ引くか鋭角にぶん回す
理想形・背中で真っ直ぐ引っこ抜き切る
 
③「重心移動の勢いを活かす」
 
初心者・動かないか勢いなく揺れるだけ
経験者・落下の勢いを打面に伝えられる
理想形・上げる動作にも勢いを活かせる
 
④「打つ直前までバチを下げない」
 
サントコドッコイのリズムに合わせた
せ・え・の・お・ドンの大きな一打では
 
初心者・「ド」が終わると下がり始める
経験者・「コ」か「イ」で下がり始める
理想形・「イ」の瞬間まで上がり続ける
 
 
【経験者レベルという踊り場で立ち止まらずに、理想の打ち方を目指すための基本練習】 
ドンコン×4というリズムを、10セットをかけてバチを上げる高さを「一階」「二階」「三階」「四階」「五階」の分類で色々と変えて打つ練習を行う。
その際、両腕を【前足の構え】の範囲内で使い、親指の付け根が正面か真下に向くようにし、両肘がバレーのレシーブのような軌道で内に絞りつつ上げることを徹底していく。
 
【前足の構え】
バチが打面に触れたとき、真下を向いた親指の付け根と真上に突き上げた小指と薬指の腹とでバチが挟まれており、肘が下を向いた状態で真っ直ぐ伸び、腕の付け根が四つん這いになる際の前足の位置に垂れ下がっていれば、体の重みが自然とバチ先に伝わる。
それと逆に、親指の付け根が横を向いていたり、小指や薬指でバチを挟めていなかったり、肘が外を向くように曲がっていたり、腕の付け根が胴体の側面にあったりすると、体の重みを活かせる配置にならないので、上腕や肩の筋力に頼る割合が増える。
 
この【前足の構え】の範囲内でバチを操作し続ければ、腕と胴体との間の「引っこ抜く勢い」の伝達がスムーズになる。
【前足の構え】から離れると「振り回したがり」な肩の筋肉のみが動力源になってしまい、腕と胴体との「引っこ抜く勢い」の連動は途絶えてしまう。

【一階】超低空
両腕を【前足の構え】に垂らし、手首は握手をするときの角度に垂らし、親指の付け根は真下を向かせ、手首・肘・肩は動かさずに、小指の微小な動きだけで打面にタッチする。

【二階】低め
両腕を【前足の構え】に垂らし、小指・薬指と親指の付け根を開きながら手首を上げでバチを持ち上げ、小指・薬指と親指の付け根でバチを挟みながら手首を振り回すことで、肘や肩は動かさずにバチを打面に持っていく。

【三階】中くらいの高さ(地方に便利)
肘が左右に開いてしまわないよう軽く内に絞りながら腕の付け根を肩甲骨からの操作で少しだけ浮かせ、バチはほぼ握らずに親指の付け根を正面に向けたまま手のひらに引っかけて持ち上げ、吊るされた紐を引くような軌道で小指を握りこみつつ肘を真下にストンと落とした勢いでしなった前腕ごとバチを打面に叩き付ける。

【四階】高め
腕が左右に開いてしまわないよう脇を内に絞りながら、肩甲骨の操作で顎が上を向き、胸が上下に開くように背中から伸び上がることで、腕の付け根を水平よりも上まで持っていき(肩で引っ張り上げずに胴体のしなりで放り投げる)、小指の握りによってかろうじて腕と繋がったバチを腕の根本ごと背中で引っこ抜くようなつもりで肘を勢いよく真下に落として打つ。

【五階】バチコーン打法
斜め上前方に向けて爪先立ちし、骨盤を前に出しつつ腰を反らし、気道確保のように顎を上げて胸の上下方向の開きを最大にすることで、【四階】のときに活用した胴体のしなりがさらに大きな全身のしなりになって【前足の構え】にある腕の付け根をより高く放り投げることができ、そうして浮かした全身の重心が真下に落ちる勢いを小指の握りこみでバチに伝えて引っこ抜く。

【10セットの基本練習】 
事前に【前足の構え】の軌道を確認
1セット目【二階の高さで打つ】
2セット目【手首の動きをだんだん小さくする】
3セット目【一階の高さで打つ】
4セット目【手首の動きをだんだん大きくする】
5セット目【二階の高さで打つ】
6セット目【肘を少しずつ浮かしていく】
7セット目【三階の高さで打つ】
8セット目【胴体を少しずつしならせていく】
9セット目【四階の高さで打つ】
10セット目【全身を大きくしならせていく】