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間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

上半身と下半身の理想的な使用比率は1:9

 私のライフワークは、小手先しか使わない和太鼓の打法が主流となってしまっているステージ和太鼓業界の中でも自分なりの「全身をしなやかに連動させるバチコーン打法」を貫き通し、小手先だけでは生み出せない和太鼓の魅力をプレゼンし続けること。
 私の言う「全身をしなやかに連動させる」の条件はかなり厳しく、世の太鼓打ちの95%以上はその条件を満たしません。
 
 全身をしなやかに連動させられているかどうかを見分けるための私なりの基準は、下半身に対する上半身の使用比率をどこまで下げられるかということ。
 どんな運動にも共通することですが、全身をしなやかに連動させるためには、下半身の働きをメインにして上半身はサブに留めておくことが必要です。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 下の人体図における赤く色付けされた小手先の部分を「上半身」とみなし、広背筋も含めた小手先以外の白い部分を「下半身」と定めるならば、上半身と下半身の使用比率を1:9くらいになるまで持っていくのが理想的。
 多少力んだとしても、2:8くらいまで下げることができなければ、その体の使い方は「しなやか」とは見なせません。
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 和太鼓業界に「和太鼓には足腰が大事」と言っている人自体は大勢いますが、その言葉が指し示している内容はずいぶんと異なっています。
 その内容の違いは、太鼓を打つ際の【上半身と下半身の使用比率】という視点から見ると明らかになります。
 
 まず、一番有りがちな薄っぺらい理解が「低い姿勢をキープするために足腰が重要」というもの。
 このような人は、実際に太鼓を打つ際に「一緒に足腰を動かそう」なんてつもりが少しもないため、上半身と下半身の使用比率もほぼ10:0となっています。
 
 次に多いのが「打つと同時にしっかり踏み込むことで勢いを増す」という捉え方。
 この捉え方自体はそれほど悪くないのですが、上半身優位の小手先打法の流儀から和太鼓の世界に入った人にとって、下半身の使用は付け足しのオプションでしかないという認識がほとんど。
 本人はしっかりと意識しているつもりであっても、せいぜい9:1、良くて8:2といったところでしょう。
 
 下半身の使用比率をさらに高めていこうというモチベーションが比較的高いのは、民俗芸能というより広いくくりで民舞や和太鼓に取り組んでいる団体。
 踊りという足腰を重視せざるを得ない演目に取り組むことによって、常日頃から下半身の活用に慣れているのです。
 1950年代から秋田のわらび座を始めとするいくつかの歌舞団がこうした民俗芸能の楽しみを広めていったおかげで、今では全国各地に民俗芸能というくくりで和太鼓をたしなむアマチュアサークルが点在しています。
  
 このような民俗芸能を愛好する歌舞団やアマチュアチームがやっかいなのは、「一つの芸能をとことん深めていきたい」という追求欲よりも「さまざまな芸能をやりたい」という収集欲の方が優先されがちなところ。
 そのせいで、地元の熟練者であれば全身をしなやかに連動させられている芸能も、未熟かつ異質な劣化コピーとしてしか再現できないことがしばしば。
 そんな現状に対して「私はまだまだ未熟で本物はもっと素晴らしいんですよ」と謙虚でいられればまだマシなのですが、劣化コピーでしかない芸をまるで本物と同等かそれ以上であるかのように騙って紹介するという原作レイプも横行しています。
 
 そんなわけで、たとえ民俗芸能サークル界隈であってもそれほど深い追求をするチームは少なく、和太鼓における全身の連動もちゃんと実現されているわけではありません。
 踊りと同様に下半身をしっかりと働かせようとしても、バチを握っている上半身から力を抜けなければ勢いの伝達が上手くいかないため、忙しい割りにキレ味の少ない非効率的な動作に陥りがち。
 そのため、動作の主役は上半身のままで、肝心の下半身の活用比率も1割(9:1)から2割(8:2)程度に収まっていることがほとんどです。
 
 そんな中、わらび座から派生していった長野の歌舞劇団田楽座は、どんな芸能にも確かな重心操作を常に活用しようと真摯に取り組み続けてきました。
 それでも、和太鼓における上半身の使用比率を1〜2割まで下げるという水準に団体として到達できたのは、私の推測によると21世紀に入る間際のこと。
 田楽座の過去の映像などを見ていると、20世紀までの和太鼓における上半身の使用比率はまだ5割(5:5)から良くて3割(3:7)程度に見えます。
 
 その原因はおそらく、戦後のステージ和太鼓業界を席巻していた「耳の真横に両腕が来るように真っ直ぐ構えるべき」という見た目重視の教えが、肩まわりの自然な脱力を阻害していたから。
 その呪縛から抜け出して、バチの操作における主役を「肩から下半身へ」と完全に交代できたのが2000年前後だったのでしょう。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 私自身は、和太鼓を始めて間もない2002年に田楽座のワークショップを受けたおかげで、肩まわりの脱力による【下半身の主役化】という高みを素直に目指すことができました。
 所属する和太鼓チームに入ってくる後輩にも最初から「主役は下半身だ」と伝え続けていくことで、全身のしなやかな連動を素直に身に付けていってくれました。
 
 難しかったのが、他団体のメンバーから打法についてのアドバイスを求められたときの伝え方。
 世のほとんどの太鼓チームでは肩を主役にする打ち方を教え込むため、後から私が下半身の重要性をいくら強調したところで、当人の肩が主役の地位をなかなか譲ろうとしないのです。
 その結果、肩を主役にしたままで下半身もダイナミックに使用するような中途半端な打ち方が伝わってしまい、彼らの上半身と下半身の使用比率はせいぜい7:3から6:4くらいに留まっています。
youtu.be
 
 そんな現状を打ち破り、全身をしなやかに連動させる打法を誤解なく伝えるために、自主練習用のプログラムを作成しました。
mrbachikorn.hatenablog.com
 このプログラムは、下半身をダイナミックに活用するための課題と、主役の座を肩から奪い取るための課題と、肩から奪い取った主役の座を下半身へしっかり譲り渡すための課題とに別れています。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 下半身(胴体も含む)主導でバチを上げ、下半身主導でバチを降り下ろす。
 上半身(小手先)を使用するのは、バチが打面に当たる瞬間に、バチと腕をつっかえ棒にするときだけ。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 そんな目標を持って練習を積み重ねれば、上半身と下半身の使用比率は1:9へと近付いていきます。
 全身をしなやかに連動させて和太鼓を打ってみたい方は、是非試してみてください。