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間違ってもいいから思いっきり(市井人の日曜研究)

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

癖が強いジャンル「大太鼓正面打ち」に挑戦

 私が和太鼓にはまりこんでしまった理由は、歌舞劇団田楽座のずば抜けた打ちっぷりに惚れ込んだから。
 世間には胴体をがっちりと固定し小手先だけで打つような和太鼓が多い中、田楽座の和太鼓は小手先だけでなく全身がのびのびとしなやかに躍動していたのです。
 
 和太鼓には、地域によってさまざまな打ち方があります。
 太鼓の打面を真上に向ける伏せ打ち、打面を斜めに傾ける座り打ちや斜め打ち、太鼓を水平に置く横打ちや背面打ちなど。
 
 田楽座が他のプロ集団と大きく違うのは、全国に伝わる祭り太鼓を舞台に上げる際、単にリズムやメロディや構成をパクるだけではないところ。
 単なる素材として祭り太鼓を上から目線でコレクションするのではなく、実際に地元の担い手に弟子入りすることで、世代を越えて受け継がれてきた祭りの精神性や地元ならではの身体操作の知恵などをとことん見習おうとするのです。
 
 そうしてさまざまな民俗芸能を吸収してきた彼らの動作に共通しているのが、どんな複雑なに太鼓を打っていても動作の起点は下半身にあり、上半身は力が伝わっていく経路でしかないということ。
mrbachikorn.hatenablog.com
 田楽座に初めて太鼓を教わってから、私も下半身を中心にした打法の合理性をとことん追求するようになり、そのノウハウを多くの人に伝えてきました。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 そんな私にとって、最も興味がなかったジャンルが、1970年代に生まれたばかりの大太鼓正面打ち。
 このジャンルの創始者やその他プロ奏者の演奏を観ても、野性動物のようなしなやかな全身の躍動を感じることはまずありません。
 世間では「和太鼓と言えばこれ」というくらいメジャーなイメージが付いてしまったジャンルなのですが、この新設ジャンルではほとんどの奏者がごくごく限られた稼動域内でしか体を連動させられていないのです。
 
 さらに生理的に受け付けないのが、大太鼓のソロプレイヤーにありがちな押し付けがましいメンタリティ。
 客に背中とお尻を向けたまま黙々と打ち込む彼らを観察していると、「こんなにきつい体勢で高度なリズムが打てている俺は技術も体力も凄いんだぞ」だとか「俺の背中から修験者のような威厳や神々しさを感じて有り難がりなさい」といった暑苦しい独り善がりなメッセージがひしひしと伝わってきます。
 
 こうした数十年間のイメージ戦略のおかげで、大太鼓正面打ちは多くの太鼓打ちの中で「いつかは挑戦したい憧れのジャンル」として素直に受け入れられています。
 ですが、その洗脳工作の影響を微塵も受けていない人にとって、やたらと背中で魅せたがる彼らのナルシシズムは共感しづらいものとして映るでしょう。
 
 しかし、最近になって、私にも大太鼓正面打ちに挑戦する機会が廻ってきました。
 この一年、篠笛・鉦・チャッパ・締め太鼓・長胴太鼓・桶太鼓・大平太鼓・大太鼓を織り交ぜた曲を演奏していくことになり、メンバーの出席状況に応じて足りないパートを補えるようにほとんどのパートを覚えようとしています。
 その一環として、昨日は大太鼓の正面打ちに初めて挑戦しました。
 
 今回取り組むのは大人数で盛り上げ合う曲なので、私の嫌うナルシシズムの問題はすでにクリア済み。
 後は、いつものように全身を気持ちよく連動させて打てるかという、動作の質の問題が残っています。
 
 私に大太鼓のパートを振った人は私に経験がないことを知らなかったため、正面打ちの基本など何も知らずに見よう見まねで言われた通りのリズムを打ってみました。
 そのとき撮られた写真を後から見せてもらったのですが、インターネット上の画像や動画に出ていた打ち手と私との大きな違いは顔の向き。
大太鼓正面打ち - Google 検索
 全ての打ち手が正面にある大太鼓を睨み付けたまま打っているのに対し、私は大きく振りかぶるときに上体を反らしながら目線を太鼓から外していたのです。
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 これは、バチを肩で振り回さずに背中から全身で引っこ抜こうとするいつもの要領が現れたもの。
 私の中では「肩で振り回すのは力任せで気持ち悪い」という感受性が定着しているため、大きく打つからには太鼓から距離が取れるように上体も顔も反らしてバチをより後方に逃がしてあげるというのが自然の成り行きでした。
mrbachikorn.hatenablog.com
 
 私と同様、ストロークを稼ぐために上体を反らすプロ奏者は見付け出すことができましたが、それでも目線は打面を睨み付けることで胸郭を縮めてしまっており、稼動域がそこそこの大きさに制限されていました。
 おそらく「太鼓から目線を外さないこと」が正面打ちの基本だとどこかで定められているのでしょう。
 そして、その基本がしっかりと刷り込まれた人にとって、私のやらかした上体反らし打ちは下品な邪道と映るのでしょう。
 
 ただ、大太鼓基本打ちという急ごしらえの権威に何の威光も感じない私にとって、動作効率の悪い美学に従うことよりも自然な力の流れに身を任せることの方が遥かに重要。
mrbachikorn.hatenablog.com
 auのCMで「副業っす」と明るく話しながら打つ鬼ちゃんのように、気楽に打ち囃していきたいと思います。
youtu.be
 
【さまざまな打法の一例】
 
天平太鼓」
https://youtube.com/watch?v=AFk_6v79Yrk
「大蛇山囃子」
https://youtu.be/OVm9YwrMCbw
水口囃子」
https://youtu.be/Tsqb_A5z1bs
秩父屋台囃子」
https://youtu.be/brndT0A_RgE
八丈島太鼓」
https://youtube.com/watch?v=YUnbWpra_8c
「金浦神楽」
https://youtu.be/PEustv4umqw
「中山太鼓」
https://youtube.com/watch?v=2c1CGwDaov4
「大俣太鼓」
https://youtube.com/watch?v=USr7NFBh9Zk
「磯部楽打」
https://youtu.be/WF1aOZkqL9o
「三宅島木遣り太鼓」
https://youtu.be/mWawRuDmGgk