間違ってもいいから思いっきり

私たち人間は、言葉で物事を考えている限り、あらゆるものを「是か非か」と格付けする乱暴な○×ゲームに絶えず影響されています。ここでは、万人が強制参加させられているこの言語ゲームを分析し、言葉の荒波に溺れてしまわないための知恵を模索していきます。

上達したければ失敗を稼ぎなさい

 私の生き甲斐は、人に何かを教えること。
 18歳で始めた家庭教師の頃から20年近く、バイトや趣味や職業で、数学・和太鼓・篠笛・民舞などを教え続けてきました。
 
 どんな分野であっても、複数の人間に向けて一斉に教えていると、吸収の早い人と遅い人との差が出てくるもの。
 私はこの差を「元々のできが違うから」といった、ありがちな才能論で片付けるのが好きではありません。
 こうした「上達スピードの違い」の原因は「あらゆる物事に通じる上達のコツ」を知っているか知らないかの差に過ぎないというのが、教えることを長年続けてきた私なりの仮説です。
 
 素早く上達するコツとは、失敗の回数を短期間で数多く稼ぐこと。
 逆にいうと、なかなか上手くならない人は、長い時間をかけていても失敗の回数をほんの僅かしか稼いでいません。
 
 他の人よりも早く上手くなる人は、普通の人が怖がったり面倒臭がったりして数回しか失敗できないでいる間に、黙々と何十回・何百回と細かい失敗を積み重ねているものです。
 何故ならそういう人は、数回のチャレンジで上手くいったとしてもそれは偶発的なものに過ぎず、ある程度失敗の回数を積み重ねないと確実には身に付かないと、経験で知っているからです。
 だから失敗を恐れて無駄に躊躇している暇があったら、身に付けるために必要な失敗をさっさと稼ごうとするのです。
 
 この「失敗を稼げ」というノウハウに似たアドバイスに「失敗を恐れるな」というものがありますが、前者と後者とでは失敗に対する捉え方のニュアンスがずいぶんと異なります。
 「失敗を恐れるな」という風に言ってしまうと、発言者の狙いとは別に「そもそも失敗は怖いものだ」という暗黙の前提が先入観として刷り込まれてしまう危険性があります。
 でも「失敗を稼ぐ」という言葉遣いには「そもそも失敗は上達のために必要な美味しいものだ」という前提が隠れているため、失敗への躊躇や恐怖心で無駄にする時間を削減し易くなります。
 
 物心ついたころから私が計算に強かったのは、数に関することであればこうしたトライ&エラーを無意識のうちに延々と積み重ねていたから。
 逆に、音楽などには何の興味もなかったため、リコーダーなどでは効率よく失敗を稼ぐことができず、苦手意識でいっぱいでした。
 「失敗を短時間で数多く稼げば何であろうが上達は早い」というコツを意識的に実践できるようになったのは、大人になってからのめり込んだ和太鼓や篠笛や民舞を通してのことです。
 
 勉強であれ音楽であれスポーツであれ、その人が「もとから得意だ」と思っているようなジャンルにおいては、それが努力だとも感じない無意識のレベルでこの上達法が実践できてしまっていることが多いです。
 そのような無意識のうちの成果だけに頼らず、複数のジャンルでこの上達のコツを意図的に実践してきた人であれば、さらなる次のジャンルでもこのノウハウを活かしていけます。
 
 もし仮に、個々の潜在的な才能の差が現れるとしたら、この程度の上達のコツを知っているかどうかという低次元な話ではなく、こんな段階は当たり前に通り越していった上級者同士の次元においてでしょう。
 ビギナーから中級者へステップアップをしていくような段階においては、「失敗を数多く稼ぐ」という程度のコツで十分対応可能です。
 
 また、ビギナーレベルを脱した後は、一見失敗していないように見えるパフォーマンスの中にどれだけの修正要素を見出だしていけるかが上達の鍵を握ります。
 つまり、中級者以上になると「稼げる失敗がどこにあるか」「失敗に見えない失敗がどれだけ潜んでいるか」を見抜く力こそが、さらなる上達へと導いてくれるのです。
 
 そして、最低でもそれくらいの段階まで積み重ねていなければ、才能の差なんて大した問題ではないというのが私の意見です。
 そこまで踏み込んだこともない人が考える「元々からの才能の差」なんて、こまめな失敗の積み重ねで埋められるノウハウの差でしかないしょう。
 
 上達のコツは失敗を稼ぐこと。
 もしあなたが上達したいのならば、グダグダ言ってないでとっとと失敗を稼いでしまいましょう。
 
 
※当ブログの主なテーマは、この世界を支配する「正しさ」という言葉のプロレスとの付き合い方。
mrbachikorn.hatenablog.com
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そのプロレス的世界観を支えている固定観念の源を「記述信仰」と名付け、その実態を以下のような図にまとめて解説しています。